SS席で迎えた特別な一日
花組公演『蒼月抄』を観劇してきました。
そして今回は、友の会で初めて当選したSS席での観劇。
。も宝塚には「友の会」という会員制度(年会費3,300円税込み)があり、チケット購入やキャトルレーヴでの買い物などで貯まる「タカラット」によってステータスが決まります。私はブロンズ会員なのですが今回、SS席、それも5列センターを引き当てることができました。諦めてしまわずに、先行抽選申込するのは大事だと改めて思いました。
この公演で一度きりの特別な一枚。
どうか無事に幕が上がりますように。演者の皆さまも、そして私自身も、体調を崩さずその日を迎えられますように。
そんな祈るような気持ちで迎えた観劇当日。
舞台との距離、
視線の熱、
スターが銀橋を渡るときの香り――。
SS席は舞台への没入感が本当に素晴らしく、夢のような時間が繰り広げられていました。

四条局から始まる物語
物語は、永久輝せあさん演じる平知盛(たいらのとももり)の妻・明子(星空美咲ちゃん)が、生きながらえて四条局(しじょうのつぼね)となり、源氏との戦を語る場面から始まります。
その導入で琵琶を実際に奏でていたのは朝葉ことのさん。
伸びやかな歌声だけでなく、場面ごとに空気を変える芝居、そして語りの声色の豊かさ。
“過去を語る人”としての存在感が、作品全体に静かな陰影を与えていました。
蒼く満ち、やがて欠けてゆく月の下で描かれる平家の栄枯盛衰。
『蒼月抄』は、『平家物語』を原作に、一門の栄華から落日までを叙情豊かに描いた作品です。
永久輝せあさんが描く平知盛
平清盛の寵愛を一身に受け、知略にも武運にも長けた若きリーダー・平知盛を演じるのは永久輝せあさん。
永久輝さんは雪組出身ということもあり、着物での所作や日本物特有の侘び寂び、“行間を埋める芝居”が本当に素晴らしかったです。永久輝さん主演の日本物がずっと観たかったので念願が叶いました。
伸びやかで艶があり、どこか憂いを纏った歌声は唯一無二。
その歌声を浴びると、「ああ、花組を観に来たんだ」と実感します。
一門の未来を背負う総大将でありながら、滅びゆく運命を誰より理解しているような静けさ。
勇ましさだけではない、美しさと哀しさを纏った知盛でした。
星空美咲ちゃんの明子
公家の息女・明子を演じるのは星空美咲ちゃん。
流れ矢によって母を失い平家を恨んでいた明子ですが、外国への夢を語る知盛に心を動かされ、その夢を共に叶えたいと願い正室として嫁ぎます。
凜とした佇まい、透明な意志を感じる歌声、日本物の衣装を美しく着こなす雅さ。
ただ寄り添うだけではない、“運命を見つめる人”としての存在感が印象的でした。
平家一門、それぞれの生き様
知盛の弟で穏やかで風流を好む武人・重衡(しげひら)を演じるのは聖乃あすかさん。
従兄弟で平家随一の猛将・教経(のりつね)を極美慎さん、父亡き後に棟梁となる長男・宗盛(むねもり)を一ノ瀬航季さんが演じ、それぞれ異なる平家の姿を見せてくれました。
聖乃さん演じる重衡は、多くの犠牲を生んだ戦を深く悔やみ、一族へ和睦を提案します。
繊細で優しく、遠い未来まで見据える視野を持った人物像が、聖乃さんにぴったりでした。
そして一ノ谷の合戦。
窮地に陥った教経のもとへ駆けつける重衡の「助太刀いたす!」という台詞に心を掴まれました。
時代劇などで度々ある、窮地に立たされた仲間やときにいがみ合っていた相手さえも、
「助太刀いたす!」と登場する優等生キャラにぐっときてしまう私。
この気持ち、共感してくださる方いるでしょうか。
一方、今作が花組本公演デビューとなる極美さんは、無骨で戦に生きる武将・教経を熱演。
華奢な身体からは想像できないほど力強い声と荒ぶる表情が印象的でした。
豪快で真っ直ぐ、皆を鼓舞するような明るい教経の姿を見ていると、月組『桜嵐記』で月城かなとさんが演じた楠木正儀を、ふと思い出しました。
“兄者”と慕う知盛のため、平家一門の名誉のために突き進む姿は、とても清々しい武人でした。
また、一門を束ねる立場となった宗盛を演じた一ノ瀬さんは、一族だけでなく部下たちの命にも心を配る優しい長男像が印象的でした。
皆の意見を受け止めようとする器の大きさに、一ノ瀬さんご本人の柔らかな人柄も重なって見えます。
壇ノ浦へ向かう覚悟
一ノ谷の合戦では、知盛を庇った息子・知章(ともあきら)が命を落とします。
子どもを先に亡くす親の苦しみは、想像するだけでも胸が締めつけられるようでした。
敗走する平家のしんがりを務めた重衡は源氏に捕らえられ、源氏側は三種の神器との交換を要求します。
人質となった弟を救うため要求を受け入れようとする宗盛。
しかし知盛は、「今になって受け入れるのでは、この戦で死んでいった者たちが報われない」と感情を露わにします。
そこへ満身創痍の教経が戻り、重衡の願いを伝えます。
和睦を望んでいた重衡が最後に選んだのは、平家の誇りを後世へ残すため、最期まで戦い抜くことでした。
“平家が後世に残る”とはどういうことか。
知盛は、語り継がれる生き様こそが、一門の魂として残るのだと考えていたのかもしれません。
そして壇ノ浦へ。
清盛の妻・時子は、帝と三種の神器と共に船へ乗り込み、源氏に捕らえられるくらいならと入水を選びます。
誇りのためにそこまでできるのかと、現代を生きる身としてはただ言葉を失いました。
また、敗北を覚悟した知盛は、妻・明子だけは船へ乗せず浜へ残します。
最期まで共にと願う明子に、「この者たちを語り継げ」と想いを託す知盛。
冒頭で四条局となった明子が過去を語っていた意味が、ここで胸へ返ってくる構成が本当に見事でした。
滅びを背負う男役の美しさ
永久輝さんの知盛には、ただ勇ましいだけではない、“滅びを知る者”の静けさがありました。
時代の流れには抗えないことを理解しながら、それでも誇り高く立ち続ける。
その姿には、日本物ならではの侘び寂びと、男役の持つ儚い美しさが重なって見えます。
激しく戦いながらも、どこか月光のような冷たさと静けさを纏っていた知盛。
『蒼月抄』は、平家の滅びを描いた作品であると同時に、“背負う男役の美しさ”を強く感じる舞台でもありました。
壮大だった舞台演出
『蒼月抄』は、日本物らしい情緒だけでなく、宝塚ならではのダイナミックな舞台演出も見応えがありました。
特に印象的だったのは、一ノ谷の合戦。
希波らいとさん演じる源義経による“鵯越の逆落とし”を思わせる奇襲を、宝塚の大階段を用いて表現していた場面です。
急斜面を駆け下りるような迫力とスピード感。
宝塚の象徴ともいえる大階段が、歴史絵巻の戦場へと姿を変えていたことに驚かされました。
そして壇ノ浦の戦い。
大きな船が盆の上で回り、その周囲を組子たちが青い布をたゆたわせながら波として表現していく演出は、とても幻想的でした。
ただリアルな海を再現するのではなく、“記憶の中の海”のような美しさがあったように思います。
青く揺れる波の中で、平家が静かに滅びへ向かっていく。
その光景は、まるで一幅の絵巻物を見ているかのようでした。
絵巻のように閉じるラスト
宝塚ではよく、主人公が命を落としたあと、死の瞬間とは異なる衣装に着替えたトップコンビが並び、“叶わなかった二人”や“死後に結ばれた二人”を象徴するような場面があります。
『蒼月抄』にも、その美しい余韻の場面が用意されていました。
死した知盛と明子が並ぶラスト。
永久輝さんは、ポスターでも印象的だった、深い海のような濃い青の衣装。
そして美咲ちゃんは、空を思わせる淡い水色に、平家の象徴である蝶が描かれた打掛姿。
その並びが本当に美しく、まるで一枚の絵巻物を見ているようでした。
滅びゆく平家の物語を見届けたあと、最後にあの場面があることで、『蒼月抄』という作品世界をひとつの絵巻として胸の中で閉じることができたように思います。
そして休憩を挟み、幕が開けば、そこはまったく別世界。
ラテンショー『EL DESEOエルデセーオ』では、日本物で描かれていた滅びの美学から一転、熱量と生命力に満ちた舞台が繰り広げられます。
この振り幅こそ、宝塚の二本立ての醍醐味。
一つの作品世界をしっかり味わい切ったあとに、ショーで全身の空気を入れ替えるような感覚があります。
お芝居とショーで二度美味しい。
そんな宝塚らしさを存分に堪能できる公演でした。
『EL DESEO』については、また別の記事で語りたいと思います。
後白河法皇が源氏に与えた錦の御旗。 官軍の証が、朝敵の手に渡ったのを知ったときの絶望。この時点で敗北は決まっていたのだと思います。 |


※本記事にはアフィリエイトリンクが含まれています。
記事内容は、筆者個人の体験や記録に基づいています。
にほんブログ村

コメント