本拠地・宝塚大劇場で観る花組②
宝塚大劇場という本拠地で、
はじめて花組の舞台を観る――。
街の空気に包まれ、客席に座り、
ここが「ムラ」なのだと、何度も実感することになります。
客席に座った瞬間、すでに宝塚の世界だった
月曜日の13時公演。自分の席に着いて、ふと隣を見ると、
音楽学校の生徒さんとおぼしき若いお二人が並んで座っていました。
姿勢がとにかく美しい。
お団子頭に背筋がすっと伸び、余計な力がどこにも入っていない。
まるでバレリーナのような佇まいに、
思わず見惚れてしまいました。
「ああ、本拠地に来たんだな」
その感覚が、じわじわと実感として湧いてきます。
『巡礼の年~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~』という物語
この日のお芝居は
『巡礼の年~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~』。
19世紀ヨーロッパで絶大な人気を誇りピアノの魔術師と言われた、
フランツ・リストの半生を描いた作品です。
華やかな名声を手にしながらも、
音楽家として、人として、
「自分は何者なのか」「どう生きるのか」を問い続けるリスト。
生田先生はあえて、日本で馴染みのあるドイツ名ではなく、
リスト本人がこだわったハンガリー名をタイトルに据えたようです。
ショパンとの友情、ジョルジュ・サンドとの関係、
さまざまな出会いと別れの中で、
彼は魂の彷徨を続けていきます。
ピアノだんじり――音楽に選ばれた男の姿
幕が上がり、
ミルクティー色のロングヘアをなびかせながら
ピアノをかき鳴らす柚香さんの姿が現れた瞬間、
客席の空気が一変しました。
中でも強烈に印象に残ったのが、
動くお立ち台の上でピアノを演奏するシーン。
「ピアノだんじり」と呼ばれている場面です。
高く掲げられたピアノとともに舞台上を移動しながら、
全身で音楽を放つその姿は、
技巧や見せ場という言葉を超え、
まさに“音楽に選ばれた男”、時代の寵児そのものでした。
登場人物たちが残した余韻
宝塚の男役は、時に女役を演じることがあります。
この作品で、男装の女流作家ジョルジュ・サンドを演じていたのは
永久輝せあさん。
小柄で華奢な骨格だからこそ生まれる色気と存在感が、
この役にとてもよく合っていました。
柚香さん演じるリストが永久輝さん演じるサンドを、
お姫様抱っこしてくるくる回るシーンは必見です。
リストの親友ショパンを演じていたのは、
柚香さんと同期の水美舞斗さん。
二人の関係性を知っているからこそ、
舞台上の友情に胸が熱くなります。
音くり寿ちゃんの演技も印象的で、
若手という枠を超えた、
まるでベテラン女優のような安定感と深みがありました。
星風まどかさんの役どころは、
いわゆる“不倫”を描いているとも言えるものですが、
そこにやましさはなく、
一途に愛を選ぶ姿がとても美しく映りました。
偽名で音楽評論家のような立場を持ち、
社会が女性に求める役割から少し逸脱しながら
自分の道を生きようとする姿に、
私は強く心を惹かれました。
可愛いお姫様ではなく、
意志を持って生きる女性像。
私は、こうした娘役がとても好きです。
オペラグラスではよく見えない衣装の細かなところも、Blu-rayで改めてみると見応えあります。 |
『ファッショナブル・エンパイア』――見どころ満載のショー
続くショー
『Fashionable Empire』は、
洒落者たちが集う「帝国」を舞台に、
時に都会的で、
時にラビリンスのように魅惑的な、
ダンスの花組が存分に味わえるショーでした。
洗練された音楽とリズム、
次々と変わる衣装とフォーメーション。
華やかさの中に、どこか影や孤独も感じさせる構成が、
花組の多彩さを際立たせていました。
この手を取るか、取らないか
柚香さんが歌う歌詞の中で、
とりわけ心に残ったフレーズです。
「この手を取るか、取らないか
お前に決めてほしい」
選択を、相手に委ねるという優しさ。
そして、きっとついて来るだろうという静かな自信。
たとえ、ついて行かなかったとしても、
その手は、確かにこちらへ差し伸べられている。
そこに感じたのは、
相手を縛らない強さであり、
受け止める覚悟、そして裏切らない誠実さでした。
宝塚の男役が纏う「男気」とは、
こういうものなのかもしれない――
そんなふうに、胸に刻まれた一節です。
Fashionable Empireのときの柚香さんは青髪! |
次世代の輝き、そして至高のデュエットダンス
聖乃あすかさんが若手を率い、
名曲「sunny」に乗せて踊るパワフルなシーンは、
とても見応えがありました。
思わずこちらまで踊りたくなるようなノリの良さと勢い。
そこに加わる色気。
次世代のスターたちが放つ、すさまじい威力を感じます。
そして訪れる、至高のデュエットダンス。
このときの衣装は、ファンのあいだで
「チョコミント」と呼ばれているもの。
少し赤みがかった茶色をベースに、
差し色として入る水色が爽やかで、
今ふりかえっても、あまり見たことのない配色です。
フリルなどの華美な装飾はなく、
大人っぽい色味が印象的なデザインでした。
お互いを深く信頼していなければ、
あそこまで身を委ねるディップを、
美しく決めることはできないと思います。
まどかちゃんが高く上げた脚に沿って見える、
ミント色の生地。

脚が美しく上がるからこそ、
衣装もまた、いちばん美しく見える。
まさに、計算し尽くされたダンスの極みです。
そして、この場面の魅力は
「ダンスがうまい」という言葉だけでは語り尽くせません。
厳しい体勢でありながら、
柚香さんの、穏やかで相手を包み込むような眼差し。
そして、すべてを委ねた、
まどかちゃんの至福の微笑み。
深いディップを決めながら、
お互いへの愛情と信頼が、
確かに表情にあらわれていました。
私は、
こんなふうに思い合う二人の姿を見るのが、
本当に大好きなのだと――
その美しさに、涙がこぼれるほどの、尊い時間でした。
夢の余韻と、初ムラの終幕
感情がジェットコースターのように動いた、ムラでの初観劇。
観るものすべてが新鮮で、全身で浴びた花組の香りは、
細部こそ思い出せないものの、
今も香水のように、印象として深く刻まれています。
それは、まさに夢のような時間でした。
夢見心地のまま劇場を出て、
公演おやつには徳島産ゆずにこだわった柚子みそなどを販売する柚りっ子の
「ゆず香るクッキー&マドレーヌ」をチョイス。

これがとっても美味しく、忘れられない公演おやつなのですが、
今は販売されていないようで残念です。

宝塚大劇場内のジェラートショップ「ボヌール」では、
公演ごとに趣向をこらしたアイスクリームが楽しめます。
このときの公演デザート「魔術師」は、
ハンガリーのチョコレート菓子
トゥーロー・ルディをアレンジしたもの。
チョコレートのジェラートにカッテージチーズを合わせ、
甘酸っぱいベリーのソースと、
薔薇の花びらがトッピングされた一品でした。
名残惜しさもありますが、
また訪れるであろう劇場をあとにし、
夢見心地のまま阪急電車に揺られて――
主人の待つ、知らない街の初夏の夜へ。
こうして、私の「初ムラ」は、
そっと幕を下ろしました。
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